⑭個展18・3655
 「生まれ生まれ生まれ生まれて生(しょう)の始めに暗く 死に死に死に死んで死の終わりに冥(くら)し」

 これは「作品18」(205×405)、弘法大師空海の「秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)」の書き出しの詩の一節です。「秘蔵宝鑰」とは、密教の世界を開く鍵、あるいは、衆生がもともと深奥に具えている仏性を開く宝の鍵という意味だそうです。

 “この世の全ての生きとし生けるものは、永劫の輪廻のうちにいくたび生まれ変わり、いくたび死に変わろうとも、無知迷妄のうちに生死の意味も、またその始まりも終わりも分からぬままに闇の中を彷徨い続けている。” という意味でしょう。

 私は、高校時代の友人からこの言葉を是非書いてほしいとの依頼を受けました。お母さんを亡くされ、またしばらくしてお父さんを亡くされた友人が、仏壇の中にこの言葉を書いた作品を収めたいとのことでした。
 そのお仏壇は高さ、幅共に35㎝程、奥行きが15㎝程の小ぶりのもので、お父さんが生前に思いを込めて手作りで制作された素朴なものでした。そのお仏壇の奥にこの言葉を静かに置きたいと言われたのです。
 
 作品を収めるスペースは218×334(㎜)。私はそれより少し小さめに作品を創って裏打ちし、そのサイズに合わせてマットを切り抜いて窓を作り、裏から作品を貼り付けました。
 平成22年の12/30に友人宅に持参。作品はそのお仏壇の奥に、釘も接着剤も使うことなく寸分の隙もなく嵌め込まれ、ぴったりとしっかりと収まってくれました。
 
 それ以来、私はこの言葉を幾度となく書き続けています。